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った方角を目指して宮廷を飛び出す。王家伝来の水晶の剣を皇太后マリアから託されたベンノも、名誉の重みにうたれつつ後を追う。
ACT4=銀の森
オデットを案じる姫君たちの群舞のもとに、追い払われ傷ついたオデットが弾き返されて来る。続いて宮廷から戻って来たロットバルトは怒りに任せて姫君たちを立て焼けに苛み、終に湖上の魔島に閉じ込め、岩や木々で締め付けるようにして苦しめる。
ロットバルトの張り巡らした幻術の結界に苦しみながらもジークフリードはどうにかこれを破ってこの魔島に辿り着く。彼が昨夜ここに来られたのはロットバルトが自らおびき寄せたからに過ぎない。尋常の人間にはそのありかを探り当てることすらできないはずのこの魔法の地に一介の若者が足を踏み入れたことにロットバルトは舌を巻くが、彼が確かに傷ついているのを見て取り、とどめを刺す機会を狙いながら物陰に身を隠す。
真っ白で可憐な姫君たちが無惨に大地の割れ目に挟みつけられて苦しむ光景にジークフリードは息を呑む。皆を助け出した彼は、自分の過ちで愛を裏切ってしまったことを深く詫び、どうしたらこれを償えるか問うが、もはやその道はないと聞かされる。
もはや自分の命を賭けてでも姫君たちを救わねばならないと考えたジークフリードが「自分の運命はあなたがたとともにある」と告げると、姫君たちは一国の将来を背負う青年にそのような覚悟を賜ったことに感謝するが、一方で困惑する。なぜなら彼女たちは既に己の死を予感しており、若い皇帝を道連れにしてしまうことが憚られたからである。
このように慈しみ合う彼らを見たロットバルトはますます怒り、ジークフリードを倒そうとする。ベンノら援軍はロットバルトの分身達に阻まれ、激しく争うが苦戦するジークフリードを助けられない。
ジークフリードは拾て身でロットバルトに挑みがかるが歯が立たず、ついに湖底へと真っ逆さまに突き落とされる。
彼が湖底で死を目の前にしていることを知ったオデットは、今ここで彼を救わなければ白鳥の姫君たちが救われ得ぬことを悟り、湖底へと飛び込む。激怒しつつも驚愕するロットバルトを尻目に、二人は互いの姿を認め、互いを救おうと力を振り絞る。

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「これが人間か!これが愛か!」ロットバルトは叫び、かつて自分が決して信じようとしなかった真の愛が本当にこの人間の世にあることを知る。同時に、愛を封じ込めることで成り立って来た自分の魔術の体系が、まさに崩れ去ろうとしていることも知り、己の無力さにあえぐ。うめき声を上げながらロットバルトが「銀の森」もろとも滅び行くその瞬間、湖底の二人も力尽き、やがて動かなくなる。
ベンノたちと白鳥は、ジークフリードとオデットの冷たい身体を曳き揚げ、黄金の船に乗せる。ロットバルトの分身たちも今や魔法を解かれ、ベンノたちと一丸となって船を槽き出すと、天から一条の光が差し込み、二人のむくろを照らす。同じ光がもうー条、宮廷の方角を明るく染めているのを見たベンノたちは、二人の魂が召し上げられ、尚且つその至尊の精神がこの国の人々に永遠に受け継がれて行くであるうことを知るのであった。

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